東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の義経

展覧会【安田靫彦展】を観た 時の河遡ることを果たし再会大いに喜ぶ(東京国立近代美術館:東京都千代田区)2016年春

この記事の概要

「待ちかねたぞ」「いざ、竹橋」に心を惹かれた

喜びあふれる一大事 『いざ、鎌倉』の安田靫彦展

源頼朝は「待ちかねたぞ」と言い

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の頼朝
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の頼朝

 

源義経は「いざ、竹橋」と言う。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の義経
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の義経

 

上記の写真は展覧会のチラシ。

実際は、東京国立近代美術館の出入口を入ってすぐのところに置いてあった、立看板に貼り付けてあったチラシです。

チラシのデザインの元は安田靫彦作『黄瀬川陣』。頼朝・義経兄弟を題材にした絵です。チラシに記載された、彼らのセリフが「待ちかねたぞ」と「いざ、竹橋」です。

鎌倉幕府に一大事が生じた際、武士は必ず首都・鎌倉に駆け付けなければならなかったことから生じた言葉が『いざ、鎌倉』。

日本画壇に名を残す大家、とりわけ歴史画の巨匠である安田靫彦の大展覧会ですから ~開催場所である東京国立近代美術館では、彼の展覧会は40年ぶりというからなおのこと~ 一大事であります。駆け付けなければなりません。

頼朝の「待ちかねたぞ」は義経へ掛けられた言葉ではなく、この展覧会へ宛てられた言葉であると考えますと、安田靫彦展への喜びあふれる言葉に思えてきます。実際、まさに待ちかねた『いざ、竹橋』にふさわしい展覧会でありました。

前売券『頼朝・義経券』を買った

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の頼朝と義経
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会チラシ 『黄瀬川陣』の頼朝と義経

 

上記の写真、展覧会のチラシのデザインは、前売券のデザインと同じです。もしかしたら当日券のデザインも同じでしょうか。

前売券の名称はズバリ『頼朝・義経券』。デザインそのままの直球勝負です。

一人で2枚を使っても良し。二人で一緒に使っても良し。

 

一般の当日券は1,400円。

これが2名分のチケットである『頼朝・義経券』の当日券になると2,500円ですから300円のお得。

それが前売券の『頼朝・義経券』はジャスト2,000円ときたものだ。800円引きとはずいぶんと大きなお得でした 。前売券を東京国立近代美術館のチケット売り場で買いましたが、現金払いのみでした。クレジットカード払いは不可とのこと。

しかも満足の行く展覧会、素晴らしい時間でありました。

 

初めて特別展会期中に2度行った展覧会『安田靫彦展』

2016年4月13日 平日 客は少なめ

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)館外の展覧会横断幕 『孫子勒姫兵』
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)館外の展覧会横断幕 『孫子勒姫兵』

 

足を運んだ1回目は、2016年4月13日。

この日は平日とはいえ、天候がパッとしなかったといえ、入場者が少なかったです。

私は行列が嫌いで人が多いのは困るのです。多くの人出で気が散ってしまい、何を見に来たのか分からないから。人ではない。美しいものを観に来たのだから。

じゃあこの日はよかったじゃないか。

そうでもないのです。なぜ名画一堂に会した安田靫彦展に人がいないのか。そういった不満をもったのです。関係者でもないのに。調子のいいものです。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)館外の展覧会横断幕は透けている
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)館外の展覧会横断幕は透けている

 

そんなことを言っている私なのに、眠くなってしまいました。しかも『黄瀬川陣』で。『頼朝・義経券』の恩恵を受ける人が困ったものだ。2度目に行ったときは、やっぱりこの絵をまた観られて良かったと思いました。

この日は葉が増えたとはいえ、まだサクラが咲いていました。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)まだサクラは咲いていた
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)まだサクラは咲いていた

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)皇居お堀沿道のサクラも
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)皇居お堀沿道のサクラも

 

2016年5月5日 祝日 開館前から行列 快晴

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)朝から絶好の展覧会日和
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)朝から絶好の展覧会日和

 

足を運んだ2回目は、2016年5月5日。この日はこどもの日。良いお天気でした。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)朝から美術館出入口がザワザワ
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)朝から美術館出入口がザワザワ

 

驚き嬉しくなりました。開館前の行列であります。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)開館前に行列ができていた
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)開館前に行列ができていた

 

普段は10時のところ開館時間を9時55分に前倒し。『安田靫彦展』へ人が流れていきます。

多くの人出で気が散ってしまい、何を見に来たのか分からないから人が多いのは困るのですが、総じて、客のマナーが良かった。話をするにもさほど大きな声にならず。俺が見るんだ邪魔だどけ、と割り込んでくる奴もいない。

この類の展覧会のご多分に漏れず年配者が多くいましたが、20代も10代も見受けられました。10歳前後の男の子が「もっとじっくり観たいよ」と言っていたことが頭に残っています。

良い雰囲気の会場でした。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会看板その横に当日券購入の行列
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)展覧会看板その横に当日券購入の行列

 

この日はとっくのとうに桜の花びらは散り、目の前に新緑が広がっていました。あまり緑色が好きではない私でも嬉しくなるひと時でありました。

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)サクラは新緑に変わった
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)サクラは新緑に変わった

 

東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)昼間も絶好の展覧会日和
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)昼間も絶好の展覧会日和

 

音声ガイドの人気が高い 周りの人への心配りもしてほしい

絵の解説を聞きながら展覧会を楽しむための機械『音声ガイド』は、本展では520円。

この日は利用者、かなり多かった。展覧会の入口で貸出を受けるのですがそこも混んでいた。4月に行った時は音声ガイドスペースに閑古鳥が鳴いていたのに。

 

5月に行った後に知ったのですが、音声ガイドのナビゲーターは俳優の高橋英樹が担当しています。声に力があって安定感がありますから、安心して展覧会を過ごすことができた人、多かったのではないでしょうか。

それに加えて、解説ナレーションはテレビ朝日の矢島悠子アナウンサーが担当 ~主催の一つとしてBS朝日があることに担当理由があるのでしょうか~。彼女の声には嫌味や癖がない。また担当が男と女とでバランスがとれていますから、誰にでも利用しやすい『音声ガイド』になったのかもしれません。

 

私はこれまで一度も、音声ガイドを利用したことがありませんので正確な評価をすることはできませんが、客に利用してもらうための努力が伺えます。

音声ガイドを聞きながら作品の目の前に立って暫くの間じっと見ていること。それはいい。

だけれど、音声ガイドから音漏れがしていたことは見過ごせなかった。そういう奴は一人だけですが。

この機械音の音漏れで気が散ってしまったのです。音声ガイドの音漏れに接したのは初めてのことです。これから増えていくことなのでしょうか。マナーの問題として理解すればそれでよいのかどうか。気にかかることです。

 

余裕が喜びを生み出す 事前の準備対応によって可能となる時間、対象の取捨選択

2回目に足を運んだ5月5日は、午後から東京・京橋にある東京国立近代美術館フィルムセンターに映画や展覧会を観に行く予定がありましたので、安田靫彦展には朝一番でお邪魔して12時前に失礼することにしていました。実際には、90分ほどの時間しか作ることができませんでした。

それほど時間がありませんでしたが、掛け値なしで、良い時間を過ごすことができました、と言うことができます。

展示替えがあったとはいえ、一度同じ場所で、同じような内容の展覧会を見ているのですから、展覧会の、安田靫彦の雰囲気を身体で覚えているのです。感覚が少しなりともあるのです。それが余裕を生み出しました。0と1とでは思いの外、大きく違うものですね。

  • この絵はこの前見たから、今日は浅く観ればいい。通りすぎてもいい。
  • この絵はこの前見たけれど、印象深いから、今度はじっくりと見よう。
  • あの絵は人気があるだろうから、空いてから後で見よう。焦らずに。
  • このスペースに展示されていたあの絵は良かったのに、なくなっている。あの絵の替わりのこの絵はどうだろう。
  • やっぱりこの絵は、何度観ても素晴らしい。

2回目になりますと、トントントントン足が進んでいくものなんですね。

もちろん『これだ!』という絵の前では時間を費やしましたけれど、それでも感覚がアッという間に過ぎているのに、時間はまだ経っていない。これって素晴らしい。嫌らしい言い方ですが、儲けものです。

 

『安田靫彦展』には2度足を運びました。私にとって、特別展、企画展としては初めて、会期中に2度行った展覧会。2度行くことがこれだけ良いなんて思いもよりませんでした。

しかしそうした対応はなかなか難しいことです。

  • 同じ展覧会に行く意味がさほどにあるのか疑問であります ~1回の展覧会に2時間以上時間をかけてゆっくりと見るため~
  • そのためにまた『時間』を作らなければならないのか ~これだけのために、というのはなかなか難しい~
  • 少なからずの『おあし』も出るじゃないか ~神奈川の田舎から都会に出て行くのは、なかなかどうして出るものが出ていきます~

それもこれも今回の件で、見直さなければなりません。

展覧会の会期中に複数回見ることはなんて素晴らしいことなんでしょう。なんて贅沢なんでしょう。大いなる喜び。もしかしたら3回目があっても良いのかもしれません。離婚だの結婚だのだとこうはいきませんでしょうが。

 

日本画家、安田靫彦

日本画家、安田靫彦(1884-1978)。

東京・日本橋に生まれ、日本美術院の再興に参画し、中核のひとりとして活躍しました。

「美しい線」、「済んだ色彩」、「無駄のない構図」…。

日本画に対して誰もが抱くこのようなイメージは、すべて靫彦が作ったといっても過言ではありません。

また、生涯かけて歴史がに取り組み、誰も描かなかった主題にゆるぎないかたちを与え、古典の香り豊かに表現したことも特筆されます。

■引用元:安田靫彦展(時期:2016年3月23日-5月15日、場所:東京国立近代美術館)のチラシによります。

 

『靫』は『ゆき』と読む

この字は読めません。今だになんだっけ、となることがあります。

安田靫彦で『やすだ ゆきひこ』と読みます。靫彦は雅号、いわば芸名であり本名は安田新三郎です。

『靫』の字は『ゆき』とも『ゆぎ』とも読みます。

『靫』は矢を入れて背負う筒状の容器のことです。古墳時代の古墳から発掘されたものもあるそうで、歴史画の大家として名高い安田靫彦との関わりは興味深いものがあります。

ただし、彼の絵の題材としては弓矢よりも刀、それも細長い刀の方が印象に残っています。

 

展覧会の構成、章に見る安田靫彦

  • 第1章『歴史画に時代性をあたえ、更に近代感覚を盛ることは難事である』
  • 第2章『えらい前人の仕事には、芸術の生命を支配する法則が示されている』
  • 第3章『昭和聖代を表象するに足るべき芸術を培う事を忘れてはならない』
  • 第4章『品位は芸術の生命である』

以上、4章から成る『安田靫彦展』の各章の名称です。それらの詳細は不明ですが、安田靫彦本人が口にしたか書類にしたためたかしたものでしょう。

特に興味深いのは第4章の名称です。品位。芸術でない場合でも品位を核にし、生命としたいものです。

 

強く印象に残った作品について

各作品の情報については、会場にて無料で取得した『安田靫彦展 出品目録』の情報によります。作品名、製作年、年齢、所蔵の記載がありました。

見終わりましてから『出品目録』の印象深い作品にマル印を付けました。3つ4つではない数のマル印。嬉しいことです。

 

安田靫彦『遣唐使』

背景の茶色の古ぼけた色がいい。

1894年の日清戦争からわずか数年後のもの。何かこの絵に思いを込めたのか。

この雰囲気の絵をわずか16歳で描いたことに驚きます。

  • 作品名:遣唐使
  • 製作年、年齢:明治33年(1900年)4月 16歳
  • 所蔵:空欄

 

安田靫彦『守屋大連』

古墳時代の政権の有力者、物部守屋(もののべ の もりや)。

顔が怖い。顔が怖いのです。本物過ぎる顔なのです。この眼光鋭く苦々しく、殺伐とした顔。

生と死が隣り合わせだった時代の要求と理解すべきなのか。現代に圧倒的に不足している求められるものと理解すべきなのか。

会場のメモによると、ご本人は『やり過ぎたかな』と後悔していたようす。

  • 作品名:守屋大連(もりやおおむらじ)
  • 製作年、年齢:明治41年(1908年)10月 24歳
  • 所蔵:愛媛県美術館

 

安田靫彦『夢殿』

1万円札であります。いえいえ奈良は法隆寺にある建物『夢殿』にて瞑想している聖徳太子であります。

彼が着ている、服の柄の繊細さ。この件は安田靫彦の多くの絵で感じたこと、素晴らしいと思いました。芸の丁寧さその美しさ。

聖徳太子の後ろにいる女性の中には、前田美波里風の顔立ちの人がいます。

  • 作品名:夢殿(ゆめどの)
  • 製作年、年齢:明治45年(1912年)10月 28歳
  • 所蔵:東京国立博物館

 

安田靫彦『花の酔』

めっぽう良い女であります。白い肌に大きな目、長い黒髪。そこに赤い着物が腰より下にあって安定感があります。この着物の柄もまた繊細です。

彼女の姿形が、今上映している映画『ちはやふる』の広瀬すず風なのですが、いえいえ私は『花の酔』であります。

  • 作品名:花の酔
  • 製作年、年齢:明治45年ー大正2年頃(1912-13年)10月 28-29歳
  • 所蔵:宮城県美術館

 

安田靫彦『羅浮仙』

めっぽう良い女であります。白い肌にほどよい目。黒髪はお団子に。髪だけ見るとトットちゃんを思い出します。

羅浮仙は梅の木の精だそうで、どうりで彼女の後ろに梅が見事に咲き誇っているわけだ。梅の香りが彼女を包んでいるわけです。その香りの良さが顔に出ているのかしら。

羅浮仙を題材にした絵。

安田靫彦はこの作品の前にも描いており、構図の変わらない『羅浮仙女』として存在します。東京は白金台の松岡美術館の所蔵であり本年2016年1-4月の企画展『館蔵日本画展』にて見ることができたとのこと。

そちらの実物を観たことがないせいもあるのでしょうが、顔立ち、服の色味と全体とのバランス、また梅の咲き具合からすると、私はこの『羅浮仙』の方が好きです。現実離れした彼女の雰囲気が、本来実在しない梅の木の精という存在に合っているのかもしれません。

  • 作品名:羅浮仙(らふせん)
  • 製作年、年齢:大正4-5年頃(1915-16年) 31-32歳
  • 所蔵:空欄

 

安田靫彦『風神雷神図』

一目観たときは正直に言って軽くみていたのです。顔が漫画チックでヒョロヒョロとした身体。神様には思えない。未成年を思わせます。未熟さは神様とは相容れないものなのかもしれません。

しかし、何度も観るに連れてその印象が良くなってくる。楽しくなってきたのです。

雷を背にした雷神は、天から降りてきたかのよう。ぎょろりと大きく見開いた両目は、雷の力の甚大さを思わせるものなのでしょうか。

それとは反対に、風に乗った風神は、舞い上がり天へと昇っていくかのよう。そのため集中しているさまが顔に表れているのかもしれません。風に乗ることはそんなに簡単なことなのか、いやそうではないと。一念発起せよと。勝ち馬に乗ることもそうかもしれません。乗ればいいというものではない。

黒い線の具合が良い。そして色の具合。好きなのです。

  • 作品名:風神雷神図
  • 製作年、年齢:昭和4年(1929年)4月 45歳
  • 所蔵:公益財団法人遠山記念館

本記事参考サイト:【遠山記念館_Toyama Kinenkan】風神雷神図 2曲1双

  • 備考:所蔵元による本作品の解説、作品を見ることができます。『神々が内包されている』姿だという興味深い指摘がされています。
  • サイト管理者:公益財団法人遠山記念館
  • サイトアドレス:2017年5月10日現在
    https://www.e-kinenkan.com/collection/c1t5.html

 

安田靫彦『菖蒲』

この菖蒲の青色がたまらなく良い。紫色ではない。

何度観ても良い。

素晴らしく美しい青。

青一色の菖蒲ではなく、白もある。花咲かせる前のものは黒で描かれ、長い葉も緑ではなく黒。それらの対比で青が一層鮮やか。品の良さだけではない鮮烈な印象を持ちました。

日本の伝統的な色とされる、しょうぶ色ではなく、あやめ色でもない。青色の菖蒲が素晴らしい

  • 作品名:菖蒲
  • 製作年、年齢:昭和6年(1931年)11月 47歳
  • 所蔵:京都国立近代美術館

 

安田靫彦『月の兎』

この絵を初めてみたのですが、泣いてしまいました。その話に泣けた。

 

猿と狐と兎が、道で行き倒れた見知らぬ爺を助けようと、それぞれができることをする。

猿と狐は食べ物を採ってきたけれど、兎は何もできなかった。

そこで兎は、火の中に飛び込んで焼いた自らの肉を爺に差し出す。

爺の正体である神は、兎を天へと昇らせ『月の兎』とした。

 

巻物にそれらの場面が描かれ、右から左へと進んで見ていきます。

黒一色だったかどうか。淡い色彩の印象ですが、生きる死ぬの話ですから、状況はさほど淡白ではありません。

兎は『情けは人のためならず』ではないですね。生を失えば何の利か。その利が得られないではないか。『己を忘れて他を利する ~忘己利他~』という言葉を思い出しました。

私はどこまで行っても己を忘れることができません。月の光を、陽の光を浴びることを欲してしまいます。涙は『忘己利他』への憧れなのでしょうか。

  • 作品名:月の兎
  • 製作年、年齢:昭和9年(1934年)9月 50歳
  • 所蔵:愛知県美術館

 

安田靫彦『赤人』

残念ながら、Google画像検索ではそれらしき絵を見ることができず確認することができません。

絵の向かって右側の上に青い富士山が、左側の下に人が描かれていました。

 

赤人とは誰か。英字の題名は『Poet Yamabe no Akahito』とされていましたから、奈良時代の歌人である山部赤人(やまべ の あかひと)です。百人一首の『田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ』のあの人です。山部赤人である旨の案内は、はっきりと覚えはないのですが、会場のメモにあったかもしれません。

人だけでも面白くない。青い富士山だけでもつまらない。大家54歳の作品ですから不足であるわけはないのですが、そう感じたのです。両者一体の絵と感じたのです。

先般あった山梨県への出張にて、遠くからではありましたが久しぶりに富士山を見ました。素晴らしかったです。出張先の地元の人に私は何度も言ったほどです。

もちろん富士山そのものの素晴らしさですが、その素晴らしさを感じる人、口にいる人がいればこそ、富士山の存在が際立つ。

両者一体の絵と感じ、素晴らしい絵だと思った理由の一つは、そこにあるのかも知れません。

  • 作品名:赤人
  • 製作年、年齢:昭和13年(1938年)3月 54歳
  • 所蔵:東京国立近代美術館

 

中央自動車道の中央道都留バス停(山梨県都留市)より【富士山】を臨む04
中央自動車道の中央道都留バス停(山梨県都留市)より【富士山】を臨む

 

安田靫彦『黄瀬川陣』

  • 作品名:黄瀬川陣(きせがわのじん)
  • 製作年、年齢:昭和15年(1940年)11月/昭和16年(1941年)9月 56-57歳
  • 所蔵:東京国立近代美術館【重要文化財】

本記事参考サイト:MOMAT の国指定重要文化財 | 東京国立近代美術館

  • 備考:所蔵元による本作品の解説、作品を見ることができます。東京国立近代美術館が収蔵する重要文化財14件の紹介ページであり、一番下に安田靫彦『黄瀬川陣』の紹介があります。
  • サイト管理者:東京国立近代美術館
  • サイトアドレス:2017年5月10日現在
    http://www.momat.go.jp/am/collection/masterpieces/

本記事参考サイト:紙本著色黄瀬川陣〈安田靫彦筆/六曲屏風〉 文化遺産オンライン

  • 備考:所蔵元による本作品の解説、作品を見ることができます。ぼやけていますが絵を大きくして見ることができます。
  • サイト管理者:文化庁
  • サイトアドレス:2017年5月10日現在
    http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/175614/

 

安田靫彦『豊大閤』

題名の読み方は『とよたいこう』ではないかと思うので、そのようにパソコンに入力したのですが、『トヨタ行こう』となってしまいましたのは、回し者だからではありません。免許もってませんですから。

太閤殿下に興味関心はありません。小日向秀吉に首をはねられてしまうかもしれませんが。

団扇の美しさに惹かれたのです。または軍配でしょうか。

藤の花。

顔よりも大きい、紫色の団扇の背景の中に、金色で描かれた藤の花藤の花が紫色ではない。それが良い。美しいのです。

現代では、藤の花は4月下旬から5月上旬が見頃です。大閤殿下の生きた時代もさほど変わらないでしょう。温暖化も進んでいない。それではなぜ団扇に藤の花なのか。藤の花ではないのか、私の理解力のなさなのか。

  • 作品名:豊大閤
  • 製作年、年齢:昭和19年(1944年)2月 60歳
  • 所蔵:東京国立近代美術館

 

安田靫彦『王昭君』

王昭君(おうしょうくん)は楊貴妃・西施・貂蝉とともに古代中国四大美人の一人だそうです。好みがあるのでしょうが、私には美人だという理解があまりありません。

一般的には美人だと理解されている王昭君を題材とした絵だから良い、という思いはあまりありません。彼女が結婚をするドラマチックな悲観的な経緯、そして彼女の雰囲気の良さが印象深いのです。

白い肌のふっくらとした顔立ちの王昭君が、金色の鳳凰が描かれた黒地の衣に身を包んでいます。その彼女が光り輝いているのです。これから歩む困難の道のりを強く生きていかなければならないという決意、意欲、また顔に伺える緊張感がそう思わせたのかもしれません。

 

なお、安田靫彦展の会期中、同館のMOMATコレクション展(2016年3月23日(水)から5月15日(日))において、同じ題材の作者違いのもの、菱田春草『王昭君』が展示されていました。これも良く、実際に目のあたりにすることのできる展覧会において、同時期に同場所でみることができるという有難さに感謝しています。

  • 作品名:王昭君(おうしょうくん)
  • 製作年、年齢:昭和22年(1947年)9月 63歳
  • 所蔵:足立美術館

本記事参考サイト:安田靫彦 | 足立美術館|ADACHI MUSEUM OF ART

  • 備考:所蔵元による本作品の解説、作品を見ることができます。
  • サイト管理者:財団法人足立美術館
  • サイトアドレス:2017年5月10日現在
    https://www.adachi-museum.or.jp/archives/collection/yasuda_yukihiko

 

安田靫彦『小鏡子』

絵を一目見て強く感じる扉の朱色、紐の赤色の強さ。そしてその中にある、女の衣服の若草色、緑色の穏やかさ。それらの色の対比、対照が素晴らしい

  • 作品名:小鏡子
  • 製作年、年齢:昭和22年(1947年)11月 63歳
  • 所蔵:川崎市市民ミュージアム

 

安田靫彦『飛鳥の春の額田王』

この絵もまた『小鏡子』と同じように、赤色と緑色との対比、対照が素晴らしいと感じました。

額田王(ぬかだのおおきみ)は飛鳥時代の女流歌人。この作品のいくつかの紹介文の中では『天武天皇の妃』という内容で紹介されていません。異説がある、あるいは三角関係があるかもしれず『女流歌人でいこう』ということなのでしょうか。

彼女の上半身の衣服が赤色で、絵の中心にあるのでなおのこと鮮烈な印象を受けます。

その衣服の柄が花でしょうか、植物でしょうか、金色で細やかに描かれており華やかさが増しています。

彼女の背景には、頭上に緑色の山々。そして身体を囲むようにして寺社の数々。人と自然と街が一体となったかのようで、鮮烈な彼女を通して、その場所に見る者が居合わせているかのような、風を感じるかのようです。

  • 作品名:飛鳥の春の額田王(あすかのはるのぬかだのおおきみ)
  • 製作年、年齢:昭和39年(1964年)9月 80歳
  • 所蔵:滋賀県立近代美術館

本記事参考サイト:飛鳥の春の額田王 | 滋賀県立近代美術館

  • 備考:所蔵元による本作品の解説、作品を見ることができます。『戦後における安田靫彦の最高傑作』との記述があります
  • サイト管理者:滋賀県立近代美術館
  • サイトアドレス:2017年5月10日現在
    http://www.shiga-kinbi.jp/?p=11013

 

安田靫彦『紅白梅』

紅い梅と白い梅。だから半分ずつ描かれているのかと思いましたらそうではありません。白6の赤4ぐらいの割合。背景が黄色がかった茶色であるとはいえ、梅の紅色と比べると白色は貧弱。心地よいバランスです。

1対1だからバランスが取れて、というわけでもないのですね。

  • 作品名:紅白梅
  • 製作年、年齢:昭和43年(1968年) 84歳
  • 所蔵:ウッドワン美術館

 

安田靫彦『草薙の剣』

草薙の剣を振りかざしたヤマトタケルが赤い炎に包まれているわけですから、遠目から見ても、それだけで鮮やかで熱さを覚えるのですが、近づいてみますと何か雰囲気が違うのです。

金色だ。金の粉だ。炎に金色が散りばめられているのです。それが炎の熱さを増加させている。そして金色の神秘的な美しさ。本物は実物を見るべきだ。そう強く思わされた絵です。

この『草薙の剣』のヤマトタケルや『黄瀬川陣』の源義経の顔を見ると、稀勢の里を思い出します。

 

展覧会『安田靫彦展』の概要

  • 展覧会『安田靫彦展』
  • 会場:東京国立近代美術館
  • 住所:〒102‐8322 東京都千代田区北の丸公園3-1
  • 会期:2016年3月23日水曜日〜5月15日日曜日
  • 開館時間:午前10時〜午後5時(金曜日は午後8時まで)なお入館は閉館の30分前まで(通常の入館は16時30分まで可、金曜日に限り19時30分まで可)
  • 休館日:月曜日(3月28日、4月4日、5月2日は開館)
  • 観覧料(当日券):一般1,400円、大学生・専門学生900円、高校生400円

本記事参考サイト:安田靫彦展

  • サイト管理者:サイトのフッターに『©The Asahi Shimbun, BS Asahi. All rights reserved.』と記載あり。
  • サイトアドレス:2016年6月24日現在リンク切れ
    http://yukihiko2016.jp/
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)チケット売り場前の展覧会看板 『黄瀬川陣』の頼朝
東京国立近代美術館の安田靫彦展(東京都千代田区)チケット売り場前の展覧会看板 『黄瀬川陣』の頼朝

 

以上

  • 記事名:展覧会【安田靫彦展】を観た 時の河遡ることを果たし再会大いに喜ぶ(東京国立近代美術館:東京都千代田区)2016年春
  • 記事更新日:2016年5月10日、2016年5月21日、2016年5月22日、2016年5月23日、2016年6月24日、2016年10月24日、2017年5月10日
  • 記事出典元:山上真オフィシャルサイト

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